東京高等裁判所 昭和26年(う)3537号 判決
当裁判所は職権により原判決の当否を調査するに原判決はその理由中罪となるべき事実の判示として単に被告人が三枝悅司に対し傷害を負わしめた事実を判示しながら法令の適用においては被告人の所為は正当防衛の程度を超えた行為と認め刑法第三十六条第二項第六十八条第四号によりその刑を減軽すると説明している。
しかし法令は証拠によつて認定した事実に対して適用するのであるから若し原審説明の如く被告人の本件傷害行為が正当防衛の程度を超えたものと認めたと謂うのであれば被告人が急迫不正の侵害に対し自己又は他人の権利を防衛するため已むことを得ずしてなしたるもその程度を超えた行為であることを証拠によつて認定判示しなければならない。
然るに原判決は前敍の如く被告人の本件行為を単なる傷害と認定判示しているのみであるから結局原判決は判決に理由を附せず又は理由にくいちがいがある場合に該当する。
なおまた本件行為は権利防衛のために已むことを得ずしてなしたという正当防衛の観念を容るる余地なき案件であることは既に叙説した通りであり従つてまた過剰防衛の問題を論ずる余地もないのに拘らず正当防衛の程度を超えたものと認定した原判決は事実の認定においても判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認をしたものと謂わなければならない。
(後略)